suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。

西から東へ 米国から距離置く好機

地球観察 クロード・ルブラン
西から東へ 米国から距離置く好機

 8月24日、世界各国の人たちは北京五輪の壮麗な閉会式に見入った。この大団円を通じて、中国はスポーツではもちろん、政治でもその力を証明した。チベットでの緊張を忘れさせ、五輪開会式に世界中の指導者を出席させることに成功した。肯定的イメージを持ってもらうという賭けに勝利したのだ。

 これと時を同じくして、テレビカメラの数は少なかったが、もう一つの歴史的激動が起きていた。ロシアによるグルジアへの軍事介入だ。これにより、ロシアが世界の表舞台に返り咲いたことを目の当たりにすることになった。

 ◯   ◯

 ロシアの決意と計画の前に、グルジアが何もできなかったのは驚くにはあたらない。ロシアは揺るがなかった。自国の当然の権利だと思っていたことに加え、「人道的介入」や「予防的攻撃」など、欧米から着想を得た理屈をよりどころにできたからだ。

 ソ連の消滅以来、ワシントンと同盟国は競って暴力に訴え、その都度状況に応じて「人権を守る」「テロとの戦い」「民主化推進」などと正当化してきた。イラク戦争や、イスラエルによるレバノン攻撃、米国によるイランへの予防的攻撃の脅しなどは、国際秩序が専制支配されていたことを示している。

 今回、モスクワは同じ論法を用いている。ライス米国務長官が攻撃や武力行使に言及すれば、ロシアは面白がるだろう。これからはロシアもゲームに加わり、ワシントンが定めたルールによって米国が裏切られる可能性もあることを知っているからだ。

 国連というコンサートの場で孤立を避けるには、米国と同じ楽譜で演奏する必要があることをロシアは完璧(かんぺき)に理解した。作戦は成功し、91年のソ連の崩壊直後に米国が思い描いた国際秩序の終わりを告げた。

 ロシアの目の前にミサイル防衛システムを配備する。ウクライナやグルジアなどロシアの影響を直接受けてきた国を北大西洋条約機構(NATO)に統合しようとする。そうした方法で米国の指導者がロシア孤立を図るなら、それは間違っている。

 1962年、ソ連がキューバにミサイルを設置しようとした時、米国は猛然と抵抗した。ホワイトハウスがロシアの庭先に踏み込もうとするなら、クレムリンが語気を強めて抗議するのは当然だ。

 ◯   ◯

 08年8月、歴史のページがめくられた。西から東へ、均衡の回復があったのだ。

 ロシアとともに力を誇示したのが中国だ。ロシアの軍事介入を非難しなかったばかりか、スポーツでも米国より一枚上手だということを見せつけた。北京五輪で中国選手は51個の金メダルを獲得し、36個にとどまった米国を表彰台の一番高いところから引きずり下ろした。

 ちょっとした逸話にすぎないと思うかもしれないが、このことは世界で起きている大変動を物語っている。

 スポーツ、特に五輪は常に大国の競争の場だった。冷戦期、米ソは競技場で優劣を競った。現在までの金メダル獲得数は、現実政治で米国がソ連を打ち負かしたように、米国がロシア・ソ連のほぼ1.6倍に達している。

 しかし北京では、金メダル獲得数で中国が米国を上回り、事態は変わった。アメリカ人にとって、グルジア紛争と同じく面白くなかっただろう。実際、多くの米メディアは成績発表のやり方を変えてしまった。金メダルの数ではなく、銀や銅を含めた全メダル数を集計することにしたのだ。この方法なら、米国は110個で、中国の100個を抑えて世界一となる。

 このことは、自国の絶対的権力に疑問符を突きつけられたアメリカ人の心理状態を示唆している。だが中国やロシアが重要な役割を担う多極的世界で、米国は自らの答案を読み直し、異なる意見と妥協する術を身につける必要がある。常に米国の決断に従ってきた日本にとっても、ワシントンから少し距離を置くいい機会になるはずだ。(朝日新聞2008年9月8日付9面オピニオン13版)
posted at 07:36:06 on 09/08/08 by suga - Category: World

コメントを追加

:

:

コメント

No comments yet

トラックバック

TrackBack URL