suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。

雇用危機の姿

耕論 雇用危機の姿

■非正規労働者の雇い止め人数
 派遣 5万7300人
  期間満了 2万2160人
  中途解除 2万9451人
  不明   5689人
 契約(期間工など) 1万5737人
  期間満了 1万3517人
  解雇   2115人
  不明   105人
 請負 7938人
  期間満了 1683人
  中途解除 4738人
  不明   1517人
 その他 4037人
(12月19日現在、厚生労働省調べ。今年10月から来年3月までに雇い止めを実施済みまたは実施予定の人数)

■業種別の採用内定取り消し状況
 不動産業 197人
 製造業 187人
 情報通信業 86人
 卸売・小売業 59人
 飲食店・宿泊業 51人
 建設業 44人
 運輸業 7人
 金融・保険業 2人
 その他サービス業 136人
(12月19日現在、全国のハローワーク調べ。確認できた新規学校卒業者の採用取り消し人数)

 非正規労働者 正社員以外の労働者。以前はパート・アルバイト、契約社員ら直接雇用が主だった。職業安定、中間搾取防止の観点から、派遣には厳しい法規制があった。

 86年、雇用の多様化、人件費削減を目指す経済界の要請で、間接雇用を認める労働者派遣法を施行。04年の製造業への派遣解禁で一気に派遣労働者が増えた。請負を、派遣同様に扱う「偽装派遣」も明らかに。正社員より低賃金で、雇用の調整弁として使われやすい非正規労働者は現在計約1800万人、全労働者の3分の1に。

人間見ようとしない経営

品川正治(しながわまさじ)さん 経済同友会終身幹事

 24年生まれ。旧日本火災海上社長を経て、93〜97年経済同友会専務理事。現在は国際開発センター会長。

 職を失う非正規労働者が今年10月から来年3月までに8万5千人に達すると厚生労働省が発表した。来春採用の内定を取り消された大学生や高校生も800人近くいるという。異常な数字である。

 米国発の金融危機が欧州や新興国を巻き込み、実体経済に波及した。それが日本では雇用という経済社会の基本を揺るがす問題として浮かび上がっている。「構造改革なくして成長なし」という成長至上主義の呪縛にとらわれた米国型改革で派遣労働が緩和された結果、労働者が最大の犠牲を強いられている。

 これまで日本の資本主義には、果実は国民が分けるという実質があった。それが修正主義と批判され、果実は株主や資本家のものという考えが幅を利かせた。いったんは回復した景気の実感さえ得られないまま、リストラという名目で労働者への分配は減らされ、浮いた利益を配当に回すことで経営者の報酬を増す。そういう米国型の経営手法が当然とされてきた。

 非正規労働者を調整ための「物」とみなす風潮の横行に今年、労働者の危機感は高まった。小林多喜二の小説「蟹工船」が若い人たちの間で話題となり、「搾取」という古い言葉が議論に欠かせなくなった。労働者の危機感は現実となり、いまや「路頭に迷わせるな」というこれまた古い言葉が、切実さをもって復活している。

 話が飛ぶようだが、私は憲法9条を行動の指針としている。復員の船の中で初めて読んだ条文の根底に、国家ではなく、人間の目で戦争をとらえる確かな視線を感じたからだ。経済も人間の目でとらえることができるか。経営者として私は自ら問うてきた。

 現状はどうか。人間の目どころか国家の目でもとらえられないものに、経済は変質した。国際金融資本や多国籍企業の視線に、国家も国民も振り回されている。痛みは大きいが、米国型金融資本主義が崩壊したことに安心さえ覚える。あと5年も米国化が進行していたら,経済の変容は行き着くところまで行き,労働者も今以上に商品化されていたことだろう。

 米国では80年代から進んだグローバル化も,日本では本格的に進んだのは00年以降のことだ。日本企業はまだ米国型に百%染まってはいない。役員会で労働者を切って配当を確保しようとする財務担当者に対して,雇用を守ろうと必死に主張する人事担当者がいると信じたい。

 雇用の確保が成長を遅らせるという反論に対する答えはノーだ。家も借りられず結婚もできない若い労働者は,内需のマーケットから完全に除外されている。彼らの生活の再生産と将来設計を可能にする雇用の保障は,長い目で見て外需頼みから内需への転換を促す要素になるはずだ。

 経営者は本来,資本家のためだけではなく,従業員や代理店などすべての利害関係者のために仕事をするものだ。いま,職と家を失った非正規労働者の受け皿を,他の企業や自治体が用意する動きが急速に広がっている。彼らは人間の目で,人間を見ている。あなたには見えますかと,経営者に聞くとよい。(聞き手・今田幸伸)



労組・正社員 ともに正念場

鴨桃代(かもももよ)さん 全国ユニオン会長

 48年生まれ。元保育士。なのはなユニオン(千葉市)委員長。02年の全国ユニオン結成時から会長。

 11月末に「派遣切り」のホットラインを設けて以降,毎日電話が鳴り続けている。先日も,派遣の仕事を中途解約され,会社のアパートから退去を求められた新潟在住の51歳男性から連絡があった。

 有休の取得や居住権を主張出来ると励ましたが,仲間が去っていくアパートにいると気持ちが寒くなるからもういい、と言う。「東京で仕事を探したい。仕事がなかった路上で眠るつもり。新潟よりは暖かいだろうから」という彼に何も言えなくなった。

 非正社員は世界的不況の影響を真っ先に受け,なぎ倒されるように解雇されている。抗議の声を上げる気力もない。88年に個人で入れる「なのはなユニオン」を立ち上げ,20年間相談活動を続けてきたが,今回ほど無力さと切なさを感じたことはない。

 バブル崩壊後,非正社員が安い人件費で働き,景気が回復出来た。使うだけ使って,不況になったら切る。しかも,契約途中で放り出す。日本企業の無責任さと非常さが誰の目にも明らかになった。

 それを許したのは,労働者派遣法の規制緩和だ。派遣の対象業務が原則自由化され,労働市場全体の劣化が進んだ。製造業派遣の禁止など労働者派遣法を抜本改正し,企業のわがままに歯止めをかけねばならない。

 労働組合の動きも鈍い。目の前に,明日住む場所もなく,食べることすらおぼつかない非正社員がいるのに,「出来ることはやるから話を聞かせてくれ」となぜ言えないのか。仕事が見つかるまで寮にいられるよう交渉する,関連会社に仕事がないか探してみるなど,理不尽な扱いをやめさせる手だてはたくさんあるはずだ。

 12月に発表された日本経団連の来春闘方針は,「雇用の安定が最優先」とした当初案から「安定に努力する」に後退した。絶対に守るとは一言も言っていない。来年は正社員にも切り込むだろう。

 正社員・労働組合が守りの姿勢に入ったら,経営側につけ込まれ,モノが言えなくなる。非正社員がそうであったように「文句を言うならいらないよ」と言われる。労働条件は悪化し,今まで以上に長時間労働になっていく。「今は,すべての労働者の正念場なのですよ」と言いたい。

 全国ユニオンは来春闘に向け,正社員・非正社員が共生するための緊急ワークシェアリングを提案している。正社員の勤務を短縮し,非正社員の雇用を守る。来春闘は,正社員と非正社員が一緒に生きるために手を結ぶ,最大のチャンスだと思っている。

 様子見をしていた政府は,ようやく重い腰を上げ,住宅対策や生活費の支援などを開始した。だが,雇用促進住宅も足りない。雇用保険の要件緩和もこれから国会で審議されるので,今切られている人にすぐには対応出来ない。

 国は国民の生活と命を守る義務がある。非正社員の多くは,年収200万円以下,車1台分にも満たない金額で生活している。ちょっと前まで最高益が続き,巨額の内部留保を持つ企業が雇用責任を果たさない。国は,雇用を守るため,企業に対する法的規制を強めるべきだ。(聞き手・諸麦美紀)



誰もが野宿と隣り合わせ

生田武志(いくたたけし)さん

 64年生まれ。大学時代から大阪・あいりん地区(釜ケ崎)で日雇い労働者を支援。学校で野宿問題の授業も。

 毎週土曜日の夜,大阪の日本橋,難波など野宿者の多い地域を回っている。野宿者はこの地域で2千人。大阪市がつくるシェルターに入れるのは毎晩,半分にすぎない。大阪市の野宿者は5千人近く,全国に3万人近くといわれる。

 東京,名古屋では相次ぐ派遣社員らの解雇や雇い止めで,行くところがなくなり野宿する人が増えているという。年明けには,自動車などの製造業が少ない大阪でも増えてくるだろう。

 一般の人と野宿者は世界が別だと思われていたが,意外に隣り合わせであることが多くの人に明らかになった。フリーターもいずれ親の支援があてにできなくなる。このままでは彼ら・彼女らの一部も近い将来,野宿者になってしまうのではないか。

 夜回りのとき話を聞くと,解雇や病気,けがで仕事を失い,それが原因で家族,住居も失い,野宿に,という人が多い。住居がないとハローワークも仕事を紹介してくれない。面接が決まっても,「着ていく服がない」「給料日まで生活費がない」といった理由から,結局アルミ缶集めで1日数百円稼ぐ生活しか選択肢がなくなる。一度野宿になると抜け出すのは難しい。

 求められるのは,雇用保険や公営住宅,生活保護,健康保険などのセーフティーネットの整備だ。その網に穴があいているためどんどん滑り落ちていく。敷金・礼金なしの「ゼロゼロ物件」で家賃滞納者の家財を処分をするトラブルが目立つが,こうした貧困ビジネスが生まれるのも,公的な網が不十分なためだ。

 そして何よりも就労の機会をつくること。非正規社員を好況では安く使い,不況になると解雇するとは,最悪の使い捨てだ。ワークシェアリングで痛みを全員で分かち合う必要がある。非正規の拡大に歯止めをかけるため労働者派遣法を改正し,同一価値労働同一賃金原則などの制度をつくるのが,政治の責任だ。

 行政,NPOが協力して新しい雇用を生み出すことも考えたい。大阪では府・大阪市とNPOが日雇い労働者を対象に道路清掃や公園のペンキ塗りなどの事業を続けている。例えば,高齢者,野宿者など社会的に孤立しがちな人の巡回訪問や,小学校の安全を守る警備員などの公的就労を創出するのはどうだろう。

 貧困対策は経済援助だけでは解決しない。人と人の関係づくりが大切だ。NFO(ノン・ファミリー・オーガニゼーション)というべき,家族以外が助け合うネットワークを考えている。「生活保護申請に付き添う」「資格・技術を得る間,生活費を保障する」などの支援を行政と民間でつくれないか。少しの助けが自分自身と社会への信頼を取り戻すきっかけになる。

 オランダは男女が仕事と家事・育児を分け合うワークシェアリングを導入した。日本はどうするのか。ビジョンが見えない。不安定就労と貧困は,70年代から女性パートやアルバイトに起こっていた。一部の人に痛みを強いてはいけない。国と企業と労働者が協力し,正規・非正規,男性・女性がともに安心して働き,生活できるシステムを新たにつくりだすべきだ。(聞き手・松井京子)(朝日新聞2008年12月28日付オピニオン7面12版)
posted at 10:42:08 on 12/28/08 by suga - Category: Politics

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