suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。
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一瞬
落合恵子 積極的その日暮らし 一瞬
小雨が降る朝。
外を見ていたら、ひとりの女性の顔が窓のガラスにふっと浮かんで、そして消えた。
浮かんだのは、雨降るあの日、父親の墓前で自らの生を絶ったとき、メディアを通して流れた彼女の写真だった。
あの日、傍らには車椅子の母親がいたという。今はどうされておられるのだろう。
報道でしか知ることはできない出来事に、見も知らぬものが深く立ち入ることはできない。が、介護を体験したことがあるものや、いままさにしているひとには、他人事とは思えないニュースであったはずだ。
あらゆる意味で疲労困憊し、「このまま消えてしまえたら」と思う瞬間が人生にはあるだろう。母を介護したおよそ7年の間、わたしにもそんな一瞬があった。負の方向に振られた、その振り子を元に戻してくれたのは、わたしの場合、一体何だったのだろう。正直わからない。
毎日、毎時間、毎分、目の前の愛しいひとの、急激な、時には些細な変化に対応するだけで、あのころは精一杯だった。
外に行けば「想像したより、お元気そう」と言われたが、彼女もそう言われていたのではないだろうか。芸能界で活躍されていたので、芸能ニュースの枠内で報道されがちだった。が、彼女の自死に、この国の、政治と福祉に責任はないか。
自死を選ぶひとを「弱い」と切り捨ててしまえば、そこで話は終わる。しかし、ひとには「弱くなる瞬間」がある。どうしようもない、その一瞬の「弱さ」を知らないものや、目を逸らすもの、想像力が欠如したものに、政治ができるか。
いま、なぜ「アニメの殿堂」に117億円という巨額をつぎ込まなければならないのだろう。わたしにも愛読する漫画があるが、いま、なぜ、と憤り、憤りを通り越して呆れ、また憤りに辿りつく。
「彼女は、わたしだったかもしれない」。そう呟いた昨夜の友人からの電話が尾を引く朝。いまは雨しか映さない、窓ガラスを見ている。(作家)(朝日新聞2009年6月6日付生活31面12版)
posted at 07:37:12 on 06/06/09
by suga -
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