suga's blog 徒然なるままに
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衣の下に改憲の鎧

危ない比例削減

 自民、民主両党が共通して狙う衆院比例代表の定数削減。その問題点について識者に聞きます。1回目は森英樹さんです。(随時掲載)

衣の下に改憲の鎧

龍谷大学法科大学院教授 森英樹さん

 もり・ひでき 1942年生まれ。京都大学法学部卒。名古屋大学大学院修士課程修了。名古屋大学教授・副総長を経て現職。

 自民党も民主党も、今度の総選挙の争点に衆院議員、特に比例代表部分をターゲットとした定数削減を打ち出そうとしています。なかには比例定数180を全部削るという主張まであるようです。

 現在の小選挙区制を軸とした小選挙区比例代表並立制という選挙制度のもとで、比例代表制は、かなり不十分であり、制度的効果を十分に果たし切れていないという弱点を持っているとはいえ、小選挙区制に比べればはるかに国民の意思を公正に反映する役割を担ってきました。

 その比例部分を削減のターゲットにするというのは民主主義、国民主権をいっそう後退させるものだということを、まず指摘しなければなりません。

 公共精神

 比例部分の削減は、そこを通じて自分の意思を反映したいと思っている人々が被害者になるのです。

 選挙制度というのは、どの党が有利・不利になるかではなく、支持政党の違いを超え民主主義がきちんと作動する制度にしなければいけない、という「公共的」な観点こそ重要です。相対的に民意を反映しやすい比例部分を削るということは公共精神に反します。

 国会議員削減という衣の下から見える鎧は、自民党と民主党のいわゆる“疑似二大政党制”を一気につくってしまおうというものです。その射程には、おそらく「憲法改正」の問題も入っているでしょう。

 「海賊行為対処」派兵新法案の次に派兵恒久法を出そうと思えば、改憲を同時に進めなければ持ちません。「海賊行為」法案も、実際に動き出したら集団的自衛権行使になり、憲法論は吹っ飛ぶでしょう。ミサイル迎撃システムもそう。現状即応的な改憲の動きがでてくる危険性は深まってきたと思います。

 怒り察知

 ただ、国会議員削減を進める側は、「憲法改正」が狙いだ、などということは露骨には絶対に言いません。現行制度が導入された1994年の「政治改革」では、比例区は「民意の反映」、小選挙区は「民意の集約」といって、冷戦後の新しい時代に日本が的確・機敏に国家意思を形成できるようにしなければならない、民意の反映よりは民意の集約だ、ということを前面に打ち出してきました。

 そのときの議論と比べると、今回の削減論は、簡単に言えば「国会もリストラ」論です。自民党の伊吹文明元財務相が「増税を国民にお願いするには、まず身を切る姿勢を」と強調し、民主党の鳩山由紀夫代表も「議員定数を削減しなければ、消費税増税も国民の理解を得られない」という。

 要するに、国民にさらなる負担増を求めることの口実に、国会議員の定数削減が使われているのです。

 背景には、官僚の天下りや年金記録問題など、強制的に徴収された税金や保険料が実にいいかげんで無駄な使われ方をしている、そのことに対する国民の強い怒りがあります。そうした国民の怒りの「空気」を敏感に察知し、「国会も身を削るから」というのが今回の議論の大きな特徴になっています。(2面につづく)

国会の機能が変質 森英樹さんのインタビュー(1面のつづき)

 注意しなければいけないのは、国民のなかにも、世のなか不景気で「リストラ」時代だから、国会議員もリストラを感受すべきだという感覚があることです。公務員バッシング(たたき)のときと同じように、必要な公務にまでバッシングをかけ、公の金がかかるところはみんな絞り込めという風潮があるのではないか。

 あるいは、あれだけ多くの国会議員を選んで政治に当たらせても、政治はちっとも国民の役には立っていないという最もアバウトな政治不信があり、役立たずの議員ならどんどん削ってもいいじゃないかという感覚もあると思います。

 しかし、やみくもに国会議員は少ない方がいいという議論を始めれば、寡頭政治や独裁政治こそ一番金がかからなくていいことになってしまうし、定数を削ったら無駄と思えるような議員が消えるかといえば、そんなことも全然ないのです。

 リストラ

 そもそもリストラというのは、「リストラクチュアリング」という米国の経営用語で、企業構造の転換を意味する言葉です。必ずしも大量の人員整理、解雇を伴うものではなく、米国で解雇を伴う企業規模の縮減は「ダウンサイジング」という別の言葉を使います。

 なぜこんな話をしたかというと、「国会議員もリストラを」という言い方は、国会の構造を転換するという本来の意味では当たっているからです。衆院議員定数を比例部分を中心に削っていくとどうなるか。不十分とはいえ国民の意向が反映され、そこでの議論が国民に熟考の素材を与え、国会での多様な見解を見つつ国民世論も変わっていく-というような国民代表制の本来の構造を切り替えてしまうのです。

 必要経費

 本当に身を削るというのであれば、まず削るべきは政党助成金であるし、国家財政に着目すれば軍事費をもっと問題にすべきです。

 同時に、国会議員を相当数選んで政治をさせることは代表制民主主義にとって不可欠な制度であり、そこにお金を投じることは民主的必要経費だという視点を真正面に吸えることが重要です。主要民主主義国と比較した場合、日本の国会議員数は人口比でほぼ最下位です。(グラフ参照)

 どれだけの国会議員数が必要かは、人口構成や地理的構成、国民の意見分布の仕方などを慎重に検討しなければいけない、本当に難しい問題です。金があるとかないとか、リストラだといった単純な話ではありません。

 そういう慎重な吟味を素通りさせ、しかも比例部分の定数だけ削減するというのは、結局多様な民意に満ちた国民が主権者たることを素通りさせてしまうことになる。定数削減になんとはなしに賛成している人も多いと思いますが、自ら自分の首を絞めることになりはしないかと、そのことを私は大変懸念しています。

各国の人口10万人あたりの国会議員数(人)
スウェーデン 3.83
フィンランド 3.79
ノルウェー  3.6
デンマーク  3.29
イギリス   2.28
イタリア   1.6
フランス   1.49
カナダ    1.25
ドイツ    0.81
韓国     0.62
日本     0.57
アメリカ   0.17
 国立国会図書館の調査をもとに作成

写真・聞き手 佐久間亮(しんぶん赤旗2009年6月18日付1、2面B版)
posted at 08:14:22 on 06/19/09 by suga - Category: Politics

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