suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。

いつかきた道 武器そろえても国は守れぬ

いつかきた道 武器そろえても国は守れぬ

大石又七(おおいし・またしち) 元第五福竜丸乗組員

 先月24日、 朝日新聞に出ていた「10年後見据えた防衛力」(私のマニフェスト)=東京本社版=という記事で、元航空自衛隊航空支援集団司令官が「軍事技術は日進月歩。日本だけが防衛費を減らしている」などとして、軍事力強化の必要性を訴えていました。自衛隊に長くつとめ、その道を勉強されてきた方の考え方なのだろうと思います。しかし元司令官、あなたは55年前に起きた「ビキニ事件」をご存じですか。

 核兵器開発のために、米軍が46年〜58年に太平洋に浮かぶエニウェトク環礁とビキニ環礁で67回の大気圏核実験を行い、全部で100メガトンという爆発を繰り返しました。その爆発力は広島型原爆を毎日1個ずつ19年間落としたことになると言われています。

 核兵器は爆発と同時に、がんなどを生む27種類もの放射線を含む「死の灰」をまき散らし、広い太平洋を泳ぐマグロが「死の灰」を食物連鎖で濃縮させ、人間の口へと入ってきたのです。日本で60年前後から、がん患者が急増しました。

 この恐ろしい「死の灰」を私たち第五福竜丸が大量にかぶって日本に持ち帰り、世界に知らせて警告しました。しかし、当時の日本政府はアメリカの核実験に賛成し、わずか9カ月で政治決着を図り、被爆している私たちも無視して握りつぶしました。原爆手帳も何の援助もないまま半数の乗組員が発病し死んでいきました。他にも千隻に及ぶ船が被爆しています。

 核実験は地下に潜りましたが、核開発はこれまで以上に繰り返され、今では足元の北朝鮮にまで拡散しました。どこまで兵器化が進んでいるか不明ですが、北朝鮮が核ボタンを押せば、日本人も壊滅します。

 私が一番言いたいことは、どんなに強力な武器をそろえて軍隊を作っても国は守れない、ということです。それは太平洋戦争や歴史が証明しています。「のど元過ぎれば熱さ忘れる」のたとえ通り、敗戦64年、戦争のあの悲惨さ、ビキニ事件のあの恐怖、何事もなかったかのように反省もなく、いつかきた道に足を踏み入れ始めています。日本の核武装すべきだ、とか北朝鮮の基地を先制攻撃しろ、といった発言まで出てきました。

 自分だけが多くの核兵器を持って相手を威嚇している時には思わなかったことが、相手の矛先が自分のところにも向けられることを知った時、その本当の恐ろしさを知っているのは核保有国の指導者たちです。核廃絶に向けたオバマ米大統領のプラハ演説も、そこにようやくたどり着いたのだと私は思っています。

 日本は文化的にも歴史的にも近い朝鮮半島ともっと仲良くするべきだと思います。戦闘の訓練をする自衛隊ではなく、世界中で毎年起こる事故や災害に人命救助と復興に力をつくす災害救助隊に変わって欲しい。それが世界から愛され、信頼される日本になる道であり、戦争と核兵器をなくす道だと思います。(朝日新聞2009年9月10日付オピニオン19面13版)
posted at 10:13:42 on 09/11/09 by suga - Category: Main

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