suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。

医療保険ビジネスに翻弄される米国民

 『Link Club Newsletter』2012年Winter Vol.175(LINK CLUB事務局発行)になかなか良い記事が掲載されていたので、ここにも載せて、記憶にとどめたい。


USAレポート PICK UP!

医療保険ビジネスに翻弄される米国民

 日本人の私たちにとって、国民健康保険があるのは当たり前。失業と同時に家族全員分の医療保険を失ったり、病歴のために保険加入を拒まれたりすることはない。誰でも加入できる国民皆保険制度がない米国の実態は、なかなか理解しがたいものだろう。利潤優先の民間保険会社が牛耳る米国の医療保険制度についてレポートする。

米国に住んだら医療保険はどうなる?

 米国民は、おおまかに分けて次のいずれかの医療保険を利用している。勤務先を通じて加入する団体保険、個人で加入する民間保険会社の保険、政府支援の公的制度(65歳以上の高齢者向け健康保険/障害者・低所得者に対する医療扶助/連邦政府職員や軍人に対する保険)。

 いずれの保険も契約内容が均一ではなく、加入する保険会社やプラン、住んでいる州によって、サービスがかなり異なってくる。例えば保険会社が指定する病院や医師しか利用できなかったり、医療費の支払いを立て替えなければならなかったり、自己負担額が高かったりと(治療費からこれを差し引いた分を、保険会社が支払う。100〜数千ドルと契約によりさまざま)、支払う金額によって受けられるサービスがかなり異なる。また、歯科保険は別加入となる。

 保険の掛け金は急激な値上がりを続け、過去9年間で倍増した。一世帯あたり平均で年間14,000ドルを支払っており、ミドルクラスに大きな負担となっている(NPOヘルスケア・リフォーム・リソースによる)。現在、国民の6人にひとりが医療保険に加入していない。

癌生存者は保険加入を拒否される?

 カリフォルニア州アラメダ郡のミン・チュンさん(仮名・50代)は、市の職員だ。職場の保険に加入しているが、カバーされているのは同居している母親と妻だけ。「僕自身は20代前半まで喘息を持っていたのを理由に、加入させてもらえない」と言う。

 サンフランシスコ市在住の佐々木美智子さん(仮名)は、45歳で乳がんの手術を受けた。病院勤めのパートナーの団体保険に加入していたので、医療費や予後の薬はそれでまかなえた。1年後2人は別居したが、佐々木さんの職場は団体保険に加入していないので、パートナーは佐々木さんが薬を入手できるよう、書類上同居家族のままにしておいた。しかし最近になって仕事を辞めたため、保険を失ってしまった。癌の再発を防ぐために薬が欠かせない佐々木さんは、自分に合った保険を探すため保険ブローカーに相談した。ところが何人あたっても、「あなたの病歴では入れる保険がない」といわれてしまう。紹介をたどって病院のソーシャルワーカー(医療社会事業担当)に相談に行ったところ、口添えにより、何とか保険会社の特別枠のプログラムに入れてもらえる見通しがついた。

 このように個人加入の保険には病歴審査があり、加入できても保険料が増額されたり、既往症には保険が適応されない免責期間が設けられたりする。また妊娠中は加入できないのが普通で、妊娠出産は保険適用外のプランが多い。さらに加入後に病気にかかって契約を打ち切られることもある。

 勤務先の団体保険は、病歴や持病にかかわらず加入できるものが多いので、佐々木さんは転職を考えもした。米国で医療保険を提供している企業は全体の6割と見られ、通常、従業員は掛け金の約3割を負担する(家族プランの場合。単身者は15%)。給与が低めでも充実した団体保険に加入できる会社は、就職先として人気が高い。子どもがいる人はなおさらだ。

病気になったら家を売る? それでもダメなら破産する?

 米国の医療保険の話を聞いていると、人の体も自動車保険と同じように扱われているように思える。日本のように役所で手続きすればみんなと同じ保険に入れるわけではないので、個人も雇用者も、“保険ショッピング”をしなければならない。数々の保険会社が提供する複雑な保険プランの中から、自分の会社や家族に適したものを探して選ぶのは骨が折れる。

 マイケル・トレイナーさんは、保険エージェント会社、クレアモント・カンパニーズのプレジデントを務める。同社ではサンフランシスコ近隣エリアの中小企業に対し、各社保険商品の中から最適なパッケージを推薦仲介し、保険金申請等の手続きを代行している。

 「米国の医療自体は優れているのですが、ファイナンスが問題です。医療費がとても高いので、保険会社としては限られた資金をいかに被保険者に分配するかが難しい」と言う。1日入院の盲腸の手術が約200万円、相部屋に入院したら1日15万円、救急車を頼んだら4万円と、医療費は日本の何倍にも上る。病院に行かないで我慢する人が多い訳だ。

 筆者は米国に住んで4年になるが、癌になり治療費を捻出するために家を売ったという人に、すでに3人会った。この国の個人破産の半数が、医療費によるものだ。また、中年を過ぎ安心を求めて日本やヨーロッパに帰国した人も数人知っている。イギリスの友人は言った。「僕たちはそういう選択肢があるだけ幸せだ。一番豊かなはずの米国民が、病気につけ込んだ金儲けの対象にされているのは皮肉だね」

ヘルスケア改革で民間保険に強制加入させられる?

 ところで、オバマ大統領の最大の公約といえば、ほかでもない、ヘルスケア改革だ。この法案により、2010年から2018年にかけて段階的に、新しい法律が施行されていく。1000ページにも及ぶ法案には、子どもは26歳まで親の保険に加入できること、保険加入者の契約は病気になったのを理由に解約できないこと、保険会社の監督を強化することなどの項目が含まれている。

 最大の争点となっているのは、民間の保険会社への加入を国民全員に義務づける項目(低所得者には政府が補助金を支給)だ。国民皆健康保険を実現できない代わりの折衷案のように見えるが、この合憲性が現在最高裁で審議されている。

 国民皆健康保険に反対する米国人の中には「病気も自己責任だし、保険の加入も個人の自由。政府が管理するようになったら、自由に治療を受けられなくなる」と考える人もいる。しかし現在の医療制度はとても不自由に見える。

 崎のトレイナーさんはこう語った。「その国、その社会によって、許容できることが違いますよね。日本は単一民族の社会ですから、国民皆健康保険にもコンセンサスがとりやりやすいと想像します。でもこの先、高齢化により医療予算が増えれば、それを誰が負担するかという」問題が出てくるのでは?

米国は日本の医療サービスに参入したがっている

 実は米国はかねてから、日本の医療サービスへの参入を望んでいる。TPPがカバーする分野は24。その中に医療も含まれており、TPPに参加すれば、既存の医療制度の見直しを迫られ、自由化と営利化に拍車がつくのではないかと懸念する声があがっている。

 米国のこれまでの要求点は、具体的には病院の株式会社化の認可や薬価決定方法の変更を含む。また、保険のきく診療ときかない診療を組み合わせて行う混合診療の解禁も求めているが、これは患者にとって朗報ともなりうる。現在は混合診療を受けると、保険のきく治療分も保険適用外となり負担額が過分になるため、未承認の新薬や治療法を試すチャンスが得られにくい。しかし混合医療も度を超すと、米国のような医療格差や医療コストの高騰を招きかねない。

 日本の健康保険制度は、「すべての国民は健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する」という日本国憲法第25条に基づき、昭和33年に国民の助け合いを基本として制定されたものだ。そしてこの憲法の草案に大きく関与したのは米国である。「生きたい」という人間最大の欲求と本能。そのための医療をどこまで営利ビジネスにしていいのかを、真剣に考えなければならない時が来たようだ。

 Text by:スマキ・ミカ



 ちょっと、思い出したので追加。




医療保険ない 米国青年急増 民間財団が研究 5年間で250万人も

 日本のような公的国民皆保険制度がなく民間の保険が中心の米国で、十九歳から二十九歳の若年成人層の間に医療保険無保険者が急増しています。米国の健康と社会問題に取り組んでいる民間研究財団「コモンウェルス・ファンド」が五月末に発表した研究「通過儀礼?―若年成人はなぜ無保険に」で明らかになりました。(菅原厚)

 この研究によると、米国の二十代の無保険者は、二〇〇〇年から〇四年までの五年間に二百五十万人増え、千三百七十万人となりました。

 米国では、企業が保険料を援助している会社に就職している人や低所得者、児童以外は、すべて個人が民間の保険会社に加入しなければなりません。

 十九歳になった時か高校卒業時は、米国の若者の健康保険にとって重大な転換点です。

 民間の企業保険に加入している親の扶養家族であっても、十八歳ないし十九歳になって進学していない場合、通常その保険給付対象から外れてしまいます。

 低所得者向け公的医療保険制度の「メディケイド」や、公的な州児童健康保険プログラム(SCHIP)を受けていても、十九歳で保険対象外になってしまいます。

 メディケイドを成人が受けようとしても資格取得条件が厳しく、たとえ十九歳以前にメディケイドの資格を有していたとしても、十九歳の誕生日以前に改めて適性審査を受けなければなりません。

 このような保険制度の仕組みによって、十九歳を境に無保険者率は飛躍的に増えます。十八歳以下の無保険者率が12%であるのに、十九歳から二十九歳の無保険者率は31%にもなります。高校卒業後、進学しないか、医療補助のない会社で仕事に就く低所得の若年成人層にとって、深刻な問題です。

 全日制の学生の無保険者率が20%なのに対し、非正規雇用で学生でない十九歳から二十三歳の40%が無保険者になっています。

 大学教育を受けていない若年労働者は、低賃金で中小企業や非正規雇用か臨時雇いの、企業保険がほとんど望めない仕事が多く、十九歳から二十九歳の時給十ドル未満の全労働者の43%が無保険になっています。

 この研究報告では、こうした若者の無保険者増大に対する対策として▽メディケイドやSCHIPの対象者を十八歳をすぎても拡大する▽民間の企業保険は学生であるか否かを問わず十八歳以上の扶養家族への保険の適用を拡大する―などを提案しています。
posted at 16:06:41 on 02/21/12 by suga - Category: Health

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