池上彰の新聞ななめ読み

中川財務相「もうろう会見」　記者は何をしていたのか？

　テレビのない時代なら、新聞記者は会見の追及が甘くても、読者に批判されないで済んだでしょう。しかし、記者会見の様子がテレビに映し出されますと、記者のレベルまでわかってしまいます。

　中川前財務・金融相はローマの記者会見で醜態をさらしましたが、会見に出席した記者たちもまた、批判を浴びることになりました。テレビニュースが、記者会見の様子を放送したからです。

　２月18日本紙「声」欄に、千葉県八千代市の読者は、こう投書しています。「驚いたのは各メディアの記者たちの対応である。テレビを通しても分かる中川氏の異変なのに、その体調についての質問がなかったからだ」

　呂律（ろれつ）が回らない大臣の様子を見て、体調を心配する質問があってもよさそうなものですが、質問がなかったことがわかってしまいました。

　記者会見に出ていた記者たちは、なぜ質問しなかったのか。中川氏が大臣を辞任してから、「中川氏は酒でトラブルが多かった」という記事が出ました。記者たちは「いつものことだ」と看過したのでしょうか。

　それとも、中川氏と一緒に酒を飲んでいたので、追及できなかったのでしょうか。

　毎日新聞は18日朝刊で、中川氏が前夜男性新聞記者たちと酒を飲み、当時は、日本から同行した女性記者らと昼食をとり、その際、赤のグラスワインを注文したと書いています。この記事の最後には、「毎日新聞の記者は、中川氏との会合には、いずれも出席していなかった」と書いてあります。わが社は潔白だと言いたいようです。

　18日朝刊の読売新聞は、昼食について、「読売新聞の同行記者も同席していたが、中川氏が飲酒しているところは確認していない」と記しています。「確認していない」という表現が曲者です。「飲酒していなかった」という記事ではありません。

　朝日は20日朝刊でようやく検証記事を掲載。前夜も当日昼食も朝日の記者は出席していなかったと書きました。飲酒について質問しなかったのは、「日本の新聞の15日付朝刊締め切りが迫っており、質問はG7の内容の確認に集中」したからだそうです。

　中川氏の飲酒癖を知っていながら、大事な会議の前夜に一緒に酒を飲む記者。記者会見前の昼食でワインを注文した中川氏の行動を「確認」しなかった記者。大臣の呂律の回らない様子を問いたださなかった記者たち。記者の行動もまた、読者から厳しく問いただされる時代なのです。（ジャーナリスト）◆東京本社発行の最終版を基にしています。（朝日新聞2009年２月23日付夕刊９面３版）