suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。

協同考え新たな基幹産業を

資本主義はどこへ

協同考え新たな基幹産業を 競争と共生

内橋克人さん 経済評論家

 うちはし・かつと 32年生まれ。神戸新聞社記者を経て67年から経済ジャーナリスト、評論家として活動。日本の技術者たちを描いた「匠(たくみ)の時代」シリーズをはじめ、「規制緩和という悪夢」「経済学は誰のためにあるのか」「共生の大地」「悪夢のサイクル」など、現場主義と検証に力を入れた著書多数=高波淳撮影

 --内橋さんは市場万能、競争至上の新自由主義経済に異議を唱え、90年代から「このままでは雇用が破壊される」「社会のきずなが断たれる」と警鐘を鳴らしてきました。現状をどう見ますか。

 「今の日本は一番大事なものを失いました。それは、人間の尊厳と景気の自律的回復力です。これまでは景気が悪くなっても設備投資が動き出し、やがて働く人びとの所得が増えて好況になった。しかし、日本はいびつな不均衡国家になってしまった。過剰な外需依存と格差拡大、簡単に職を奪われ、安心して消費もできず、景気変動に耐える大事な力を失ってしまったのです」

 --なぜ極端な不均衡国家に。

 「日本はグローバル化に『対応する』べきところを『適応する』ことばかり考えてきました。外貨を稼いでもらおうとトヨタやソニーなど『グローバルズ』(日本型多国籍企業)に政策支援を集中させ、同時に国内ではリストラが進んだ。小泉構造改革の下で始まったいわゆる『いざなみ景気』の中で、製造業への派遣労働が自由化され、海外に進出していた工場が『日本回帰』と絶賛されて帰ってきた。つまり国内でも低賃金で雇用できるようになり、輸出によって海外で稼ぎまくった。一方、多くの派遣労働者は社会保障の枠外に置かれ、クビを切られている。賃金、社会保障、地方、農業、あらゆる面で格差が拡大した。グローバルズが稼いだ外貨は十分還元されず、米国の浪費にすがることもできなくなって操業停止です」

 --雇用問題は深刻です。

 「市場万能システムでは人間は単なる労働力であり、経営者も景気の条件反射のように労働力を切る。もともと雇用を減らすのは最後の選択だから、例えば雇われている人の数を示す雇用指数は、足元の景気よりやや遅れて動く『遅行指数』とされています。それが今や、景気の先行きを示す『先行指数』のような状況です」

■企業化した「公共」

 --内橋さんたちの異議は、しかし市場主義の潮流の中では力を持たなかった。

 「過去30年に及ぶ新自由主義政策は周到につくられています。時の権力者たちは、一つの思潮を広めるのに必ず学問とマスコミを動員します。アメリカでは『シカゴ学派』を、日本では規制緩和の諮問会議などを通して、『官から民へ』『働き方の多様化』『努力した者が報われる社会を』などとあおった。私は、こう問うてきました。『民』は民間巨大資本の民ではないか。働き方の多様化ではなく、働かせ方の多様化ではないか。努力が報われる社会は結構だが、競争社会では最終的に一人勝ち、敗者は努力不足だからあきらめろというのか、と」

「日本人は、時流に乗る熱狂的等質化の傾向が強く、強い者に弱く、弱い者には強いという特性があって、少数の異議申し立てが排除されやすい。これは危険だと思います。『公共』という意識も弱く、公共の企業化という流れの本質もなかなか見抜けなかった」

 --現在の資本主義は破綻(はたん)しかけている、との見方があります。処方箋(せん)はありますか。

 「世界の国内総生産(GDP)の合計は54兆ドル(約5千兆円)ほどなのに、金融市場を暴走するホットマネーは最大で約540兆ドルともいわれています。利が利を生む虚のマネーが巨大化して実体経済を振り回してきた。もはや制御不能です。ホットマネーはいずれ自滅すると思いますが、実体経済を救うためにも、国境を越えて本当の専門家を集め、真剣に国際協調に取り組む必要があります」

■分断から連帯へ

 --内橋さんは「共生経済」、具体的には「F(食料)E(エネルギー)C(ケア)自給圏(権)」を提唱してます。

 「競争の原理は分断です。分断して対立させ、競争させる。切磋琢磨(せっさたくま)は結構ですが、共生は連帯と参加と協同を原理として食料、エネルギー、介護など人間の基本的な生存権を大事にする、FとEとCを自給し、消費するだけでなく、そこに雇用をつくり出す。その価値観の下で新たな基幹産業を創出し持続可能な社会に変える。経済効果は大きいはずです」

 「オバマ米大統領は『無保険者に保険を』と公約し、財源として富裕層優遇減税を見直す考えです。所得再配分政策の復活です。FEC自給圏に通じます」

 --国内経済優遇は保護主義につながるという意見や、逆に江戸時代のような自給経済に戻ろう、といった声も出てます。

 「とんでもない。FEC自給圏は人間の安全保障です。私は古き良き日本がいいなどとは思いません。差別や身売りがあり、基本的な生存権が奪われていた時代ではなく、人間を第一義とする共生経済をめざしているのです。それは小さな地域や若者たちの間で、すでに始まっている未来です」   聞き手 都丸修一(朝日新聞2009年2月23日付オピニオン13面12版)
posted at 10:53:13 on 02/23/09 by suga - Category: Politics

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