suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。

在日対日本社会を超えて 東北アジアで共に生きる

シリーズ 現在の視点

在日対日本社会を超えて 東北アジアで共に生きる

東京大学大学院教授 姜尚中さんに聞く(上)

 悩むことで強くなる。悩むことで他者とつながる。悩むことは生きている証し。著書『悩む力』がロングセラーとなっている政治学者の姜尚中さん。閉塞と不安が渦巻く現代の、そこにある希望を語ります。(平川由美)

 カン・サンジュン=東京大学大学院教授(政治学)。1950年熊本生まれ。在日韓国人2世。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。ドイツ留学後、国際基督教大学助教授などを経て現職。著書に『在日』『姜尚中の政治学入門』『愛国の作法』『悩む力』など多数。

 私とはいったい何者か。この問いは、在日として生まれた僕にとって常につきまとう問いかけでした。生まれ育った熊本という故郷と、朝鮮半島という祖国とのはざまで分裂したまま生きなければならない。ぼくは中学生のころ吃音でしたが、今振り返ると、在日という理由で社会に受け入れてもらえないのではないかという不安と無縁ではなかったような気がします。

 なぜ在日として生まれたのか、その意味をぼくは問い続けてきました。そして見いだした活路が「東北アジアに生きる」という可能性だったのです。在日であることで、僕はナショナリズムを超えたいと思った。国境を上から超えるのではなくて、下から人々とつながりながら、さまざまな断絶や対立、敵愾心を克服していく作業をともにやっていきたい。僕は「東北アジアで人々とともに生きる」と言い続けたいのです。

 福祉が破壊され国民は「在日化」

 今、日本を見ると、かなりの国民が「在日化」していると思います。日本国籍を持っていても、年金さえどうなるかわからない、定職につけるかどうかもわからない。雇用と福祉が破壊され、セーフティーネットなき時代を生きる日本国民は、特殊な存在として置かれてきた在日の状況に向かいつつあるのではないか。僕にとっては、在日的なわが友が、いや応なしに増えつつあるわけです。

 それならば、今こそ国を超え、境界を超えてつながるチャンスではないか。貧困、非正規雇用、失業を強いられている人々が声を上げ、連帯していくこと、同時にその周りの人々も、ともに結び合っていくこと、それが必要だと思います。

 僕は「もやい」という言葉が好きです。これは熊本県の水俣の運動から生まれた言葉で、船と船をつなぐもやい綱のように、きずなを結び合うことを意味します。かつて水俣病患者は原因企業チッソを訴えたことで、地域から疎外された。チッソで働いて生計を立てる家庭も多かったからです。しかし水俣ではそうした葛藤を乗り越え、自然とのきずなを結び直して、豊かな町をつくろうとする運動が続けられました。「もやい」は、そんな願いが込められた言葉です。

 僕自身がこの「もやい」を実感したのは1985年、埼玉県で初めて、外国人登録法による指紋押捺を拒否したときです。ぼくの周りには、支援者の輪ができました。市の職員や高校教師、組合活動家、ジャーナリストなど、さまざまな市民が激励してくれた。それまで在日対日本社会という二項対立でしか考えられなかった僕の目に、地域の住民一人ひとりの顔が見えてきたのです。共生という言葉が合言葉になりました。

 最後には、押捺を決断しましたが、いい人たちにたくさん出会えました。

 資本主義総体の矛盾が出てきて

 現代、僕たちが抱える最大のこんなんは、理想や社会、歴史の目的といった「大きな物語」が見えにくいことだと思います。60年代後半から70年代初頭までは、社会は変革できる、その過程で人間は疎外から解放される、解放された人間が社会をまるごと変えられる、自己変革と社会変革は常にどこかでつながっている、と考えることができました。今は挫折感や無力感にさいなまれている人が多い。世界経済危機にしても、雇用問題、社会保障問題にしても、資本主義総体の矛盾として出てきているわけですから、その巨大なシステムを前に二の足を踏んでしまうのでしょう。

 では、どうすればいいのか。東大では「希望学」という新しい学問を模索しています。希望とは何か。願いを実現するために、自分が行動を起こして変えていくことだと、僕は思います。誰かに期待して変わるのを待っているのではない。変えていくプロセスに自分が加わることです。そのためには自分が変わることも必要でしょう。どうして自分が変わらなければならないのか、悩み抜いて初めて、既成観念や価値観を変えられるのだと思います。

 メディアがシャワーのように浴びせているのは、「あなたが変えるのではなく、おのずから変わるんだ」というメッセージです。それではだめだと思う。戦前から戦後、現代に至るまで、何がまちがっていたのか、欠けていたものは何だったのか、個々人が見据え直し、みずから変えていく行動を起こすことが今、必要だと思います。(つづく)(しんぶん赤旗2009年6月23日付学問文化9面)
posted at 19:14:43 on 06/23/09 by suga - Category: Philosophy

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