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政治のありようが問われる 一緒によりよく生きるため

シリーズ 現在の視点

政治のありようが問われる 一緒によりよく生きるため

東京大学大学院教授 姜尚中さんに聞く(下)

 自殺者が年間3万人を超え、生活保護を打ち切られて餓死する人がいて、異常な犯罪が起きている今、政治のありようが切実に問われています。政治とは本来、人々が一緒によりよく生きるためのしくみをつくるものです。今の政治は、経済効率性を上げるための方便にされている。政治が経済の召使い、従属物になり下がっていると思います。

 市場に任せていけないもの

 僕が1979年にイギリスにいたとき、マーガレット・サッチャー(79〜90年イギリス首相、保守党)が「社会は存在しない。あるのは個人だけだ」と言った。これは、お互いが支え合うことを完全に否定して、個人に責任を押し付ける思想です。見えてくるのは、国民がズタズタに分断され、「あの人よりはまし」と、自分より下がいることで安心するような、抑圧を下へ下へと連鎖させていく殺伐とした情景です。

 当時はやった言葉に「ミニマムステート(最小限国家)」という言葉がありました。できるだけ国家は市場にくちばしを入れるな、全部、市場に任せろ、という意味ですが、これは明らかにまちがいです。社会には、市場経済では成り立たないものがある。人間にとって一番必要な、水を含めた自然、エネルギー、教育、生命にかかわる医療、農業など、人間存在を支える根本的なものは市場に任せてはいけない。やっぱり公の、パブリックなものなんです。しかし実際には、極めてエゴイスティックな特定企業が、公の財産を食いつぶすような事態が起こっている。

 市場原理主義による新自由主義的な経済システムは、自然の流れでできたものではありません。国家を通じて意識的につくられたプロジェクトです。だとすれば、変えられるはずです。

 今、政治がなすべきことの第一は、最もダメージを被っている人を救い出すことだと思います。例えば、働く場を保障することは急務です。働くという行為の底にあるのは、社会の中で自分の存在を認められるということではないでしょうか。人は、働くことを通して、自分はここにいていい、自分は生きてていい、という実感を持つことができる。だからこそ、その働く場を奪われることは、一番つらい。

 希望で現実を照射しながら

 そして政治は、人間同士の信頼を回復するための方法を考えるべきです。今、他者への不信が蔓延しています。他者への信頼が欠けた社会は、足腰が脆弱な社会になってしまう。きずなをどうやって結び合っていくか。希望とは、一緒に分け合いながら生きていくところから生まれるのだと思います。

 かつて東大の矢内原忠雄という教授は、「現実を批判するのは現実ではない。現実を批判するのは理想だ。理想だけが現実を批判できる」と言いました。理想は希望と言い換えてもいい。希望で現実を照射しながら、この危機の時代だからこそ、それをてこに、一緒によりよく生きる社会を実現できるのだと思います。(おわり)
 (シリーズ「現代の視点」は随時掲載)(しんぶん赤旗2009年6月24日付学問文化9面)
posted at 11:05:33 on 06/24/09 by suga - Category: Philosophy

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