suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。

本当の論点示した分析

故長谷川正安さんのこと

憲法学者 樋口陽一さん語る

本当の論点示した分析

 11月3日は日本国憲法公布の記念日です。本紙にたびたび談話を寄せてもらった故長谷川正安名古屋大学名誉教授の思い出を、東京大学、東北大学の名誉教授、樋口陽一さん(憲法学、比較憲法)に語ってもらいました。

 ひぐち・よういち 1934年仙台市生まれ。東北大卒。東北大教授、パリ第2大客員教授、東大教授などを歴任。現在、日本学士院会員、フランス学士院準会員。『憲法』、『個人と国家』井上ひさし氏との共著『「日本国憲法」を読み直す』ほか。

 私がまだ大学院生だった1960年代の初め、留学中のパリ、モンパルナスの近くのレストランで、妻と一緒に、鳥の赤ぶどう酒煮をごちそうになりました。それが長谷川正安先生との出会いでした。当時はまだ日本全体が貧しく、私も貧乏でした。学食以外で食事をしたことがほとんどなかった。「こんなにうまいものがあるのか」という強い印象でした。

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 長谷川先生は、学問上のお弟子さんたちにも、(憲法)運動の場面でも、厳しい側面を持って、おっかない存在だったと思います。しかし、最初の出会いがそういうものだったからでしょう、いま振り返ってみると、私は少し甘えた距離感で先生に接していたと思います。戦後のマルクス主義法学を開拓、発展させた長谷川先生と、当時は「ブルジョア法学」と呼ばれた領域の駆け出し研究者の一人だった私が、隔たりなく付き合いできたのは、先生の人柄の懐の深さによるものでした。

 長谷川先生の学風は、地表に現れるマルクス主義の部分に対し、基礎教養として共通に持つべき部分、とりわけ18世紀にさかのぼる法・政治思想史やヨーロッパ憲法史の把握が、岩盤のように厚いところにあると思います。最晩年には、19世紀イギリスの法学者ベンタムの研究に戻っていかれました。

 同時に、憲法学に取り組むということ自体が、理論とともに、実践的な性格を持ちます。その点で、先生は、戦後の日本の現状に、非常に厳しい批判的視点、認識を持ちながら、決して悲観的にならない一面を持ち続けていた。この間の小泉・安倍政権の時代にも、あえて「前向き」の発言をしておられました。

 マルクス主義法学にとっては、一方では階級社会の基本法の批判的分析が課題となるはずです。それとともに先生は、日本国憲法が1945年以降の世界情勢の中でこそ、かけがえのない意味を持つことを、自分の歴史的体験の中で深く消化していた。だからこそ、階級的視点を失わないと同時に、長谷川先生が語る「護憲」論というものが強い説得力を持ったのだと思います。

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 私たちが勉強した時代には、マルクス主義は当然の教養で、物事の見方や、分析の方法にはマルクス的なものが入っていました。しかし、現在はそういうものが共有されていません。それだけに、学生や市民運動をやる若い人たちには、長谷川先生の啓蒙書を読んでもらいたい。そうすればテレビや新聞だけからはまったくわからない世の中を見る目、角度が見えてくる。

 長谷川先生が指摘した、憲法と日米安保条約との二つの法体系の基本的矛盾ー。いま、アメリカが、インド洋での海自による給油の中止、普天間基地の「県外移設」という新政権の政策の変更を求め、圧力を強める中、憲法をめぐる本当の論点が浮き上がっています。アメリカからの「自立」のために自前の軍隊を持つという見せかけの「理由付け」とは正反対の、アメリカから押し付けられた「憲法改正」だということが浮き上がっています。(しんぶん赤旗2009年11月3日付政治・総合4面B版)
posted at 09:12:27 on 11/03/09 by suga - Category: Politics

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