suga's blog 徒然なるままに
とりとめのないことを、徒然なるままに、書き留めておこうかと思います。
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胸騒ぎの朝
落合恵子 積極的その日暮らし
胸騒ぎの朝
午前6時20分。電話のベルが鳴った。深夜や早朝のベルは決まって胸騒ぎを連れてくる。
「ごめん、こんなに早くから」。年下の勤務医である女友だちからだった。
「ちょっと、愚痴聞いて」
疲れているのが、張りのない声からもわかる。
彼女が勤める病院も、ごたぶんにもれず慢性的な医師不足に悩まされている。当面の皺寄(しわよ)せはまずは医療従事者たちに、結果的には患者に戻ってくる。
夕食の時間にお昼を食べる。問題になっている36時間連続勤務もまた、彼女の場合、常態化しているという。医療者の過労死や自死も社会問題となる今。
「こういった疲れきった医者に、わたしなら診てもらいたくないと心底思うんだ」
医師である彼女が言うのだ。医師たちの過重労働は、医療過誤と直結しやすいのだから、患者にとっても看過できない重大なテーマである。
通常、13時間以上ひとつの作業に専念すると、何かしらのミスが起きやすいというデータをどこかで読んだことがある。
一方、猛烈で執拗(しつよう)なクレーマーの存在も彼ら彼女らを追いつめる。こういったクレーマーの存在は、別の大問題とも直結しやすいと、わたしは思う。
密室化しやすい医療の現場で、患者やその家族の、きわめてまっとうな異議申し立てや疑問を、「例によってクレーマーからのとるに足らない声」として、結果的に封じることに役立つからだ。
将来、かなり高い確率で患者になる可能性があるひとりとしてお願いしたい。モンスタークレーマーの存在と、まっとうな異議申し立てや疑問を混同することはなんとしても避けていただきたい。まっとうなそれは、医療従事者にとっても患者にとっても、医療を「拓(ひら)く」ために必要な声であるからだ。
「今夜は宿直だから、少し眠っておこう」
彼女が眠れないまま勤務についたら……。あらたなる胸騒ぎと向かい合う朝である。(作家)(朝日新聞2009年2月21日付生活31面13版)
posted at 08:54:50 on 02/21/09
by suga -
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